福島の放射能濃度低下、チェルノブイリより早く 筑波大
福地慶太郎2020年10月29日 11時00分
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東京電力福島第一原発事故で福島県に広がった放射性物質の状況は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年)と比べて、土や河川の放射能濃度の低下スピードが大幅に速いという結果を筑波大などの研究チームがまとめた。28日、科学誌に発表した。
筑波大の恩田裕一教授らは、福島第一原発から80キロ圏内を中心に放射性物質の分布などを調べた210本以上の論文を検証。チェルノブイリ原発事故による周辺地域の汚染と比較した。
その結果、福島はチェルノブイリと比べ、地表の放射性セシウムの量が早く減ったことがわかった。地表にある量が少ないほど空間線量率も低くなる。福島では除染などが行われた一方、チェルノブイリは大半の地域で活動が少なかったからだという。
こうした地表の放射性セシウムは、河川に流れ出す「供給源」でもある。土についた状態で川を流れる放射性セシウムの濃度について、事故後1年間で福島とチェルノブイリで比べたところ、福島のほうが1・6倍早く低下していた。チームは、地表の放射性セシウム濃度の低下が要因だと分析している。
また、水に溶けた状態の放射性セシウム濃度について、沈着量の違いの影響を除いて比べると、福島の河川のほうが欧州の河川よりも100分の1程度低かった。淡水魚の放射性セシウム濃度は河川の水に溶けたセシウム濃度と相関関係にあるため、福島と欧州の淡水魚の濃度を比べても同様の差があるという。
筑波大の恩田さんは「放射性セシウムの実態などを明らかにした」と成果を強調する一方、「福島の長期的な研究データを蓄積し、公開する財政的な見通しがない」として、国として研究を継続する必要があると訴えた。
論文はウェブサイト(//doi.org/10.1038/s43017-020-0099-x
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チェルノブイリと比較しながら福島の環境回復を研究する筑波大・恩田教授、「プリピャチ川はゆっくり流れるため化学物質が多く溶け込む」と自然環境との関係を説明(ZOOM会見)
筑波大学、福島大学、日本原子力研究開発機構による研究グループはこのほど、福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質の陸域環境中での動きから、「環境回復はチェルノブイリより大幅に速い」ことを裏付ける成果を発表した。10月27日に海外学術誌に掲載されたもの。〈筑波大発表資料は こちら〉
同研究グループでは、福島の環境回復状況の変化をとらえ、陸域(発電所から80km圏内と阿武隈川流域)の環境モニタリングに関するおよそ200本の研究論文を集約・検証。福島第一原子力発電所事故により地上に降下したセシウム137は、森林67%、水田10%、畑・草地7.4%、市街地5%の割合で陸域に沈着したと算出。セシウム137の陸域移行の実態について、森林や土壌を介した下方への移行、水田から河川への移行、除染など、様々な経路・要因から総合的に分析した。
その結果、福島の陸域では、チェルノブイリと比較して、急峻な地形で降水量が多いことや、耕作、除染などによって、表層部分のセシウム137の低減が速く進んだことが明らかになったとしている。例えば、放射性核種の下方への浸透速度を示す「重量緩衝深度」と呼ばれる係数を用いた評価で、特に耕作水田では、チェルノブイリ事故の影響を受けた陸域と比較し2~4倍と、耕作を放棄した水田、森林、草地などと比べて高く、人間活動や土地活用が土壌表層の放射能濃度低減に寄与していることも示された。
福島森林のCs137の分布と移行(上下それぞれスギ林と落葉広葉樹林、筑波大発表資料より引用)
一方、福島第一原子力発電所事故により、セシウム137放出の影響を最も受けた森林域については、樹種により経時変化が異なるが、セシウム137の量は河川水や土砂などを介し1年間当たり初期沈着量の0.3%以下しか流出せず、事故から8年間が経過しても森林生態系内(葉、枝、樹皮、幹、林床)にほとんど留まっていることがわかった。
筑波大学では、福島第一原子力発電所事故発生以来、チェルノブイリとの比較とともに、生活圏である水田・耕作地・市街地を「PFU」(Paddy fields、Farmland、Urban areas)として着目し、人間活動と放射性物質低減との関係を継続的に調査してきた。2019年には、阿武隈川から海に流出した放射性セシウムの約85%が流域面積比で38%程度の「PFU」に起源していたとの共同研究成果(福島県、京都大学)を発表し、人間活動による放射性物質低減の効果を示唆している。
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原子力関連
チェルノブイリとの違い(事故の深刻度)
チェルノブイリ原子力発電所の事故では、原子炉の設計が不十分であったことや運転員の規則違反などが重なって原子炉が制御不能に陥り、原子炉が爆発し、全壊しました。さらに、原子炉の制御に引火しやすい黒鉛が使われていたために火災が起き、火災の上昇気流で原子炉内にあった大量の放射性物質が広範囲に飛散しました。
一方、東京電力(株)福島第一原子力発電所では、原子炉が停止(核分裂が停止)しましたが、津波で非常用の電源が使えなくなり、燃料を冷やすことができなくなりました。その結果、燃料が溶けたり水素爆発が起こるなど、外部へ放射性物質が放出されました。格納容器の一部が損傷しているとみられますが、一定の閉じ込め機能は維持され、大半の放射性物質は原子炉内にとどまっています。
出典:資源エネルギー庁パンフレット
「原子力・エネルギー図面集」より
出典:資源エネルギー庁パンフレット
「原子力・エネルギー図面集」より
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