リハビリテーション中止基準 ガイドライン

2285リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン 第2版 4/10

II 運動負荷を伴う訓練を実施するための基準24運動負荷を伴う訓練を実施するための基準について1. はじめに 本章では,リハビリテーション治療として行われる「運動負荷を伴う訓練」を安全に実施するための基準をあげることとする. 運動負荷を伴う訓練を実施するための基準(以下,本基準)は,本ガイドライン初版における「リハビリテーションの中止基準」に該当するものである.本ガイドライン初版では,「積極的なリハビリテーションを実施しない場合」,「途中でリハビリテーションを中止する場合」とされていた.本ガイドラインでは,これらに対応するものとして,運動負荷を伴う訓練開始前,および運動負荷を伴う訓練開始後の運動負荷時の患者の状態に応じて,運動負荷を伴う訓練を安全に継続することが可能か,あるいは控えるべきかを判断する指針を記述することとした. 臥位での関節可動域訓練やポジショニング,座位での摂食機能療法等は運動負荷を伴わず,患者の全身状態に与える影響はわずかであると考えられる.このような訓練は当基準に該当する場合においても安全に実施できる可能性があるため,個別に判断することが必要である.2. 臨床疑問(Clinical Question:CQ) CQの設定としては,訓練実施前の問診やバイタルサイン測定時に異常が感じられた際に当日の訓練を実施するか?,あるいは訓練中に新規に異常を生じた際にその訓練を中止するか?,としている. CQの項目としては以下のものをあげることとした. ・血圧,脈拍,意識,呼吸等のバイタルサイン異常 ・重篤な合併症を疑わせる症状である胸痛 ・ 比較的高頻度に遭遇すると想定される症状である,筋骨格系の疼痛,頭痛,腹痛,嘔気・嘔吐,めまい,痙攣,発熱,浮腫3. エビデンスの限界 本章のエビデンスとなる,PICO形式のデザインに則った研究はごく少数であった.医療安全や合併症に関する研究は倫理的にRCTとすることに問題があることや,パブリケーションバイアスを生じる危険性があることが影響していると考えられる.このため,本章ではリハビリテーション医療に関連しない研究や既存のガイドライン,各分野における代表的な専門書等も参考とした.このため,本章で引用されているエビデンスの多くは,リハビリテーション医療の対象となる患者群とは必ずしも一致していないという限界をもっている.4. 利用にあたっての注意点 バイタルサイン等について具体的な数値を示している部分もあるが,これらはあくまでも目安であり,絶対的なものではない.特に心大血管疾患の急性期や術後早期,脳血管疾患の急性期等では全身状態は不安定であり,本基準のみで適切に対応することは困難である.そのほか,高齢者やがん患者等虚弱な患者においても慎重な対応を行う必要がある場合もある.実際の臨床現場においては個々の患者の状態に応じて個別に判断する必要がある.これはリハビリテーション処方を行う医師の責任において行われることが求められる. また,本章の解説では具体的な疾患名等も記述されているが,本ガイドラインは診断のためのマニュアルではなく,これらの記述をもって診断を進めることは適切ではない.診断の確定は患者を担当する医師の責任であり,患者の状況に応じて精査を行い,診断を確定する必要がある.また担当医にて診断が困難な場合には,必要に応じてより高い専門性を有する医師に紹介することを検討するべきである.

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がんで闘病中の患者さんもリハビリテーション(以下リハビリ)の対象となるのをご存じですか?
がんは原発臓器によって、起こる機能障害や手術後の経過などが大きく異なるものです。
そこで今回は、運動療法を行ううえでの中止基準や、病期別のリハビリのポイントについてお伝えしていきます。

リハビリテーション中止基準 ガイドライン

目次

  • がんのリハビリにおいて重視される2つのアプローチ
  • がんのリハビリガイドラインによる中止基準と禁忌
  • 病期別に考える!がんのリハビリにおけるポイント
  • まとめ

がんのリハビリにおいて重視される2つのアプローチ

リハビリテーション中止基準 ガイドライン

がんのリハビリテーションは、治療に伴う廃用(体力や筋力の低下)を防ぐこと、がんそのものによる機能障害に対するアプローチを行うことが大きな目的です。

●二次的に生じる機能低下に対する予防的アプローチ

がんのリハビリの目的の一つは、がん治療の痛みや体調不良などによって二次的に起こる廃用性症候群と呼ばれる体力・筋力低下を防ぐことです。
特に、がんの治療によって後続的に起こる筋力低下や寝たきり予防のために、基礎体力や筋力の増強などをあらかじめ行っておく予防的なリハビリは重要視されます
国立がん研究センターによると、がんの治療においては次のような状態が引き起こされることが示されています。

  • ○腹部や胸部の術後における合併症
  • ○乳がん手術後に起こる肩関節の関節可動域障害
  • ○抗がん剤の副作用であるしびれや筋力低下
  • ○抗がん剤治療や放射線治療によって起こる筋力や体力の低下

こうした状態が生じないよう、また生じた場合に早く機能回復できるように介入していくことが、がんのリハビリにおける重要な役割の一つといえます。

●がんによる機能障害に対するアプローチ

がんのリハビリのもう一つの目的は、がんによって引き起こされた機能障害にアプローチすることです。
がんが発生した臓器のなかには、脳や脊髄など、運動麻痺や感覚障害などの機能障害を引き起こすものもあります。
これらはリハビリで良くなるということではなく、がんの大きさや治療によって症状が良くなったり悪くなったりします。
国立がん研究センターによると、がんによって次のような機能障害が生じるとされています。

  • ○舌がんや甲状腺がん術後に起こる嚥下や発声などにおける障害
  • ○四肢に発生したがんの手術後に起こる機能障害(例:骨肉腫に対する四肢切断など)
  • ○がんが骨に転移したことによる痛み・骨折
  • ○脳腫瘍による運動や感覚麻痺などの機能障害、言語障害
  • ○脊髄腫瘍やがんの脊髄への転移による運動・感覚麻痺と排尿排便障害
  • ○がんにより末梢神経障害を引き起こした場合のしびれや感覚障害、麻痺

こうした機能障がいを持つ患者さんに、元の日常生活動作を再獲得できるようにリハビリで訓練を行います。

がんのリハビリガイドラインによる中止基準と禁忌

がんのリハビリにもガイドラインが存在し、日本癌治療学会によると2003年に“がん患者の栄養と身体活動に対するガイドライン”が発表されています。
がんのリハビリに関してどのような場面で中止するべきか、禁忌事項について解説していきます。

1)ガイドラインによりエビデンスが得られたがんのリハビリは?

臨床研究などによって裏付けられたエビデンスの高い医療は、さまざまな分野で求められています。
がんのリハビリにも、ガイドラインによって推奨された、質が高いとされる医療とそうでないものとがあり、従事者は高いエビデンスにもとづいた医療を提供して行く必要があります
進行・末期がん患者に対する疼痛緩和などにおいても、リハビリは効果があるとされていますが、実はまだエビデンスレベルの高い研究データは多くないため、専門家による推奨にとどまっています。
以下にご紹介するのは現在グレードA(ガイドラインで強く推奨されている)の、がんのリハビリ項目です。

  • ●リンパ浮腫の有無に関わらず、乳がんの患者においてレジスタンストレーニングの施行は安全
  • ●運動療法は乳がん、前立腺がん、血液がんにおいて、体力・筋力・QOL・倦怠感を改善させる
  • ●がんのリハビリには特別な配慮が必要であるが、運動療法は安全に行える
  • ●開胸開腹術後に肺を拡張する呼吸リハビリを行うと肺の合併症が減少する
  • ●前立腺がん術後の骨盤体操と放射線・内分泌療法中の運動療法は効果がある
  • ●乳がん術後の患者に対する関節可動域訓練とリンパ浮腫の予防、心理面の改善

ご覧のように、がんのリハビリについては
まだ明確に推奨されている項目は少なく、さらなるデータの蓄積が待たれます。

2)がんのリハビリ中止基準や禁忌は?バイタルサインや徴候を見極めよう

がんのリハビリを行ううえで、患者さんの安全は最優先事項です。
リハビリを行うまえには、バイタルサインなどの指標を判断する必要があります。
易疲労性や呼吸困難、疲労骨折などを起こさないよう、いかに安全に配慮するかも重要な課題です。
がんリハビリテーション最前線(2015)の辻の報告によれば、

所見
血液検査●Hbの低下(7.5以下)、血小板(50000以下)、白血球(3000以下)
●低もしくは高K・Ca血症、低Na血症
転移所見●長管骨:大腿骨の3cm以上、骨中心部に向かうびらん、骨皮質への50%以上の浸潤
●内臓・血管・脊髄などの圧迫初見
●意識障害、中枢神経機能の低下(麻痺の増悪など)、頭蓋内圧の亢進
体液貯留●胸膜や腹膜、心のう、後腹膜への浸出液の貯留初見(疼痛や呼吸困難、運動制限を伴うもの)
バイタルサイン●起立性低血圧やリハビリ開始前の高血圧(160/100以上)
●不整脈(心室性)もしくは頻脈(1分間に110回以上)

上記は理学療法の禁忌であり、訓練中に所見が見られたら中止することが推奨されています。
がんのリハビリを安全に実施するためにも、こうした中止基準については頭に入れておくようにしましょう。

病期別に考える!がんのリハビリにおけるポイント

リハビリテーション中止基準 ガイドライン

がんのリハビリの中心となるのは、いかに患者さんが自分らしく生きられるか、QOL(生活の質)を保てるかということです。
そのため、早期なのかもしくは終末期(ターミナルケア)なのかによっても、対応や訓練ポイントは異なってきます。

1)抗がん剤・化学療法・手術前術後のリハビリは全身調整運動

抗がん剤や化学療法では、副作用として食欲低下、倦怠感などがあり、活動性の低下を引き起こします。
そのため抗がん剤や化学療法の施行まえ、もしくは施行中に、可能な範囲での体力維持のための運動療法(有酸素運動など)が行われることもあります。
この運動療法は心肺機能や筋骨格系の機能の維持向上のみならず、心理面での効果もあります
また手術前後のリハビリは、術後に向けての排痰訓練やスパイロメトリー(※)を用いた呼吸法の指導、術後に早期離床による廃用予防などがあります。
特に胸部、腹部手術は創部痛によるADL(日常生活動作)障害をもたらすことがよくあり、いかにして疼痛を回避して術後の動作を獲得するかも重要な要素です。
※スパイロメトリー:肺活量や換気量を調べる測定装置

2)緩和ケアや終末期ケアはQOLを大切に

緩和ケアや終末期のケアは、積極的な治療をしなくなった患者さんに余命をいかに自分らしく過ごしてもらうかが焦点となります。
痛みや食欲・体力低下により活動範囲が狭くなった患者さんに対し、身の回りの動作をできるだけ自分で行えるよう支援し、日常で行える自主訓練などを提案します。
自宅退院を考えている方には、福祉用具の導入や家屋評価などの在宅リハビリによるADL訓練、嚥下訓練などを行い、退院後もできる限り自立した生活が送れるようにリハビリを行います。
この際に必要なのは、きちんとリハビリができるような疼痛コントロールや、医師や看護師とのしっかりとした連携をもとに、どういったリハビリが適切かを判断することです。

まとめ

日本において、がんのリハビリはこの10年で特に進歩が見られた分野ですが、まだ欧米先進国と比較すると歴史も浅く、まだまだ体制がきちんと確立されていないのが現状です。
医療は進歩し、がんサバイバーも増えてきているため、いかに早期に家庭や社会復帰を果たすかを考えることの重要性が増してきています。

参考:
国立がん研究センター がんの療養とリハビリテーション 2013年版(2018年2月6日引用)
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会 編:がんのリハビリテーションガイド,金原出版,東京,2013
日本癌治療学会 癌診療ガイドライン リハビリテーション(2018年2月6日引用)
辻哲也:がんリハビリテーション最前線. 理学療法学. 第42巻4号. 352-359.2015

リハビリガイドラインの中止基準は?

脈拍数が運動前の30%を超えた場合、ただし2分間の安静で10%以下に戻 らない場合は、以後の訓練を中止するか、または極めて軽労作のものに切り 替える。 脈拍数が120/分を超えた場合。 拡張期血圧が110mmHg以上になった場合。 収縮期血圧が190mmHg以上になった場合。

呼吸リハビリテーションの中止基準は?

Q2 中止基準は? 胸痛,動悸,疲労,めまいなどの自覚症状や,SpO2 が90%以下,あるいは年齢別最大心拍数が85%になったら運動を中止する必要がある. しかし,呼吸困難感に関しては修正Borg スケールで7(とても強い)~ 9(非常に強いの少し前)が中止基準である.

リハビリ介入の血圧は?

安静時の収縮期血圧が70以下、または200以上、拡張期血圧120以上の場合はリハビリを行わないほうがよいとされていますが、個人差も大きく、患者さんの平常血圧の把握が大切になります。 頻脈は1分間に100回を超える場合。 徐脈は1分間に50回未満。

運動中止の自覚症状は?

実際のガイドラインで明記されている運動中止基準.
●狭心症状、失神、目まいやふらつき、呼吸困難感、下肢の疼痛.
●チアノーゼ、冷や汗、運動失調、顔面蒼白状態.
●収縮期血圧が運動中に上昇しない、または下降傾向、血圧の上昇(225mmHg以上).